ギルダンの徒然日記+

主に趣味関連…だけではなく色々と研究のことも含め書いてるブログ。

メモ:Replying Japan 2021に参加してきました。

名前バレ案件ではあるのですが、もう気にしないことにしたので備忘録及び自分の発表内容についてメモしておこうという形。

 

- Replaying Japan

こちらの「Program and Conference Schedule」に今年のプログラムや要旨、発表予稿などが掲載されています。

 

Rplaying Japanアルバータ大学と立命館大学の共催で行われている日本のゲームに関する研究の国際研究カンファレンスで、現在ではほかにも様々な大学や機関と共催、パートナーシップを組んでいます。

毎年夏に開催されており、2012年開催のため今年のReplaying Japan2021は9回目になります。

 

今年は“Artificial Intelligence in Japanese Game Culture”(日本のゲーム文化におけるAI)というテーマで開催されており、発表もAIに関するものが主体ですが、ほかにも様々な内容の学術的研究発表がなされていました。

今回は自分の発表の内容メモ(質疑応答含む)と、発表の中で気になったもの、興味深かったものについてカジュアルに紹介・自分の感想を整理しておこうと思います。

主に自分はゲームセンターという場所を主にゲーム研究では対象にしているので、そちらが紹介の主体となりますがご容赦を。いずれもサイト内で予稿等見れるので、気になる方はぜひ。

 

〇Kieran Nolan, "Eagle's Computer Warrior: Japanese Arcades to UK Comics via Licensed Coin-Op to Home Computer Conversions"(二日目)

アイルランドにてアーケードゲームに関する美的特性やメディア史との関係性について研究しているKieran Nolan先生による、イギリスにおけるアーケードゲームの家庭用移植における(勝手な)商業漫画展開に関する調査分析です。

・主な内容としてはまず、「Eagle Comic」というローカル雑誌において、「Computer Warrior」というゲーム内に入り込んで頑張るみたいな漫画が連載されていました。その中で、『エリア88』(カプコン,1989)と『ストリートファイターⅡ』(カプコン,1991)が主にPC版として移植された際に、カプコンを通さずに、イギリスでの発売元であるUS goldとイーグルコミックが提携して勝手に漫画化して宣伝していたものの調査分析でした。

・個人的に興味深かったのが『エリア88』の漫画化部分で、元々『エリア88』は日本では当然漫画を原作としたゲームとして扱われていたのですが、欧米では別の名前(『U.N. Squadron』)を冠してC64やZXなどで発売されていたようです。しかし、ゲーム内でのキャラクターの顔はそのままなので、勝手に漫画化する際にそれらが混在する(しかも洋風の顔はそのままに、日本漫画風のキャラは滅茶苦茶アメコミっぽい感じに)ことになっていたみたいです。

・そして『スト2』も『エリア88』もゲーム内容とイギリスのプレゼン資料だけで漫画を構成しているのが特徴で、原作何それ状態だったみたいでした。

・何というか、中々現在では不可能というか、そもそもこのような展開がされていたという点そのものが、日本のゲーム文化のトランスレーションの一例として興味深かったです。日本でも同様の例があるのかなぁと思いましたが、基本日本だと初期からゲーム以外でも提携していることが多いので物語ベースで勝手に使うことは多分なさそうかな。

・ただ似たようなケースで『ファミコンロッキー』もゲーム作品をプレイヤーが遊ぶタイプで、しかもウソ技とかあったので、比較して考えることが出来るのかも?とは思っていました。

・実在のゲーム世界に入り込む漫画って日本ではあまり多くない印象もあった(多分『あらし』が方向性を縛った可能性あり?)上で、海外だとかなりそういう展開が今でも多い(『ピクセル』も近いか)ので、プレイヤーが主人公の漫画について日本での状況を調査して社会背景を踏まえて分析するのは日本のゲーム文化を考えるにおいて面白そうかなとは。

 

 

〇Keiji Amano,Geoffrey Rockwell, "The Rise and Fall of Popular Amusement: Operation Invader Shoot Down"(三日目)

・元々からパチンコに関する歴史学社会学な研究をされている天野先生と、アルバータ大学で哲学、人文科学とコンピューティング(ゲームも含む)の研究をされてるGeoffrey Rockwell先生によるパチンコとインベーダーブームに関する地域的現象についての調査分析です。

・特に今回は『名古屋タイムス』の記事を参照しており、インベーダーブーム時にどのような状況が起きていたのか、結果的にどうなったのかについて、文献資料や学術的研究を参照して調査分析しています。(自分の喫茶店内ゲームコーナーに関する論文も使ってもらいました、ありがとうございます)

・やはり重要となるのは「名古屋という立地の特殊性」で、『名古屋タイムス』ではブーム中かなりパチンコ産業に寄った形でインベーダーブーム時におけるパチンコ産業の苦境を記事にしており、ゲーセンへの転業を苦々しく思ったり、インベーダーブーム終了時、そして「フィーバー機」の流行に際して喝さいの声を上げたりなどしている記事が大々的に掲載されるなどしていたことが、名古屋の地域性として重要な側面であるということが明らかになっていました。

・私自身は博士研究中に調査していた中で、『コインジャーナル』の当時の号でゲーセンへの転業の声が挙げられるパチンコ屋の苦境と、「フィーバー機」による復活自体はある程度知っていました。しかし『名古屋タイムス』におけるあからさまなパチンコびいきは異常…というか普通のローカル新聞でそこまでパチンコ推すのか…という点が時代背景、社会背景を想起してかなり興味深かったです。

・この点、ほかにも地域性が結構目立ちそうな感じはあるので、地元ぐらいは調べておきたいですね。『奈良新聞』は当時もあったみたいなので確認してみたいところ。

 

 

〇Hiroyasu Katou,”Human Relationship Formation through Video Games: A Case Study of a Game Center”(三日目)

・恐らく国内ゲームセンター研究の第一人者として扱われているであろう加藤先生によるゲームセンタープレイヤーのゲームだけではない形での様々な交流の形についての調査分析です。

・この中では別の属性を持つ、場合によっては全く関係ない場所にあるゲームプレイヤーたちが、特定の作品群や場所での交流によって繋がりを持ち、それが更に別のプレイヤーへと繋がりコミュニケーション空間が広がっていくという、いわばアクターネットワーク理論に通じるような空間を形成していたことを、関東でのゲームプレイヤーに対するフィールド調査によって明らかにしています。

・この点、恐らくゲーセン勢にとっては体感で気づいていることだと思うのですが、それをちゃんと学術的に分析することの意義や意味、重要性について改めて示してくれていてありがたかったです。こういうところからゲーム文化、ゲームセンター文化の重要性が垣間見えたりしますからね。

・地味に知り合い(ゆいけーさんやいまきちさん)や著名な人(えぐれさんとか)がスライドに載っていてちょっと面白かったです。恐らくらんまコミュニティなのかな~とか見ていて思ってました。

・ゆいけーさん(KOF・関西ゲーセンコミュ)やいまきちさん(ストZERO関連コミュ)は知ってる限りでも更にまた別のコミュニティに関わっている(流石にそこまでは加藤さんは確か指摘していませんでしたが)ので、そういう意味でも繋がりの連続性がコミュニケーション空間を形成しているのだな…、と見ていて面白かったです。うまいこと論文になってほしいところ(私が参考文献にしたい)。

 

 

〇Yasuo Kawasaki, "Research Report :An Overview of Japanese Theme Parks and Related Research in Japan"(三日目)

・自分の発表ですね。ラウンドテーブルの「Theme Park Studies in Japan」において発表していました。

・このラウンドテーブルは今共同で行っている研究の途中経過の発表でして、私は主に「日本テーマパークの変遷」と「日本テーマパーク研究」の概観を主に行っていました。基本的にこの二つについて、インターネットや文献資料などを通じてマッピング、テーマパークの変遷についてはジオブラウザーで地図上に表現しながら確認し、実態としてどのような状況にあるか分析していました。

・主に個人的に調査・分析していて興味深かったところは、「テーマパークという定義がかなりあいまいになりつつある」点。

・特に00年代以降はそれが顕著で、「アンパンマンミュージアム」や「横浜ラーメン博物館」など、特定のテーマのみを取り扱う、ミュージアムや娯楽施設がテーマパークとして扱われていること、そういうテーマパークが所謂遊園地タイプの大型テーマパークが減少・停滞する代わりに増えていったことを先行研究を踏まえながら挙げ、その上で既存の観光資源とテーマパークの曖昧な状態が当たり前になりつつあることを分析していました。

・今回は複合型リゾートの内、テーマパークと自称・他称されていないものは含めていなかったのですが、恐らくそれらもテーマパークに含まれてしまう可能性がある、という点も含め、この問題は複雑で、特に日本のテーマパークを学術的に研究する際に考えなければならない点だな…と見ていました。こんな曖昧になっている中で「テーマパークっぽいけどテーマパークではない遊園地(奈良ドリームランド)」もありますしね…。

 

・質疑応答では「国家をテーマにした場所について」や、「〇〇村、という名称について」質問があり、どちらも興味深いものでした。今後も研究を続けていきたいところです。

 

 

〇Victoria McArthur,”A Visual Analysis of the Cards in Fate/Grand Order Arcade”

・Carleton大学においてUXやゲームデザイン関連の研究をされているVictoria McArthur先生による『FGOAC』のサーヴァントのカードデザインについての分析です。

・そもそもゲーム内におけるジェンダー表象については欧米でかなり研究が盛んでして、特に欧米では男性は超男性的(hyper-masculine)に、女性は超女性的、かつ超性的(hyper-feminine and hyper-sexualized)に書かれることが多い点が指摘されていました。これが日本を中心に展開している『FGOAC』でも同様のことが言えるのかどうか、という分析になっています。ジェンダー論の先行研究に寄っていますが、基本日本を対象にした地域研究ですね。

・内容としてはグラウンデッドセオリーによるキャラクター属性のコード化と分析です。結果としては中々興味深いもので、性的なポーズをとっている女性サーヴァントは69%と多いものの、それらの半数は所謂ステレオタイプ的な性的な装備をしているわけではない点や、男性・女性共に(先行研究で取り上げられている)欧米のゲームと比べて攻撃性の発露は少ない点(アニメキャラ的なデザインが理由?)などがあげられていました。

・更に、どうやら先行研究では「攻撃性」と「性的表現」に正の関係性があるとみられているらしく、そちらについても突っ込んで分析されてました。対比として水着邪ンヌとヘラクレスが置かれていた(武器を持ち、攻撃性と性的表現が強いキャラクターの対比。ヘラクレスは他の男性キャラと比べて「攻撃的かつアニメ的な表現ではないデザイン」という点も指摘)のが興味深かったです。

・基本的にジェンダー論関連の研究はあまり自分では触れないようにしているのですが、実際に自分が主に遊んでいるゲームで分析されるとこうなる、というのが見えて面白かったです。確かに性的表現になるキャラは(水着とか中心に)いるなぁ…というのも含め。

・その上で、前から自分も思っていた、「露骨に性的なキャラはそこまでいない」ってのが実際にデータとして見えて面白かったですね。あと「男性が超男性的・攻撃的でない」ってのは面白い観点でした。改めて欧米と異なる点がこの辺なんだろうなとは。

・あと、今回はあくまでアーケードの物理カードのデザインについての分析が主軸だったので、恐らくより日本研究に偏ることになりそうですが、アプリ版FGOとの比較分析や、他のソーシャルゲーム(質疑応答ではグラブル刀剣乱舞、艦これなど出ていました。アズールレーンも中国で作られていながら日本で受け入れられているゲームとして興味深い)との比較分析もしてほしいと思っていました。

・基本的に日本だとこれらのデザインがよくも悪くも自然に受け入れられているので、その是非は置いといて(ここ重要)、日本文化としてどういう状況にあるのか、というのを考える研究として興味深かったです。

 

 

 

特に興味深かった研究発表(と自分の発表の振り返り)は以上です。他にも興味深い研究は多く、サイコロ、双六に関する調査分析や、中国における社会統制とそれにあらがうプレイヤーたちの攻防についての調査分析など、興味深いものがたくさんありました。

来年も行われると思いますし、論文集も既に3巻出ているので、色んな意味で私も頑張っていきたいところです。