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EVOJAPAN2023参加報告④:総括編

この記事はEVOJAPAN参加報告の総括編です。

動機編:EVOJAPAN2023参加報告①(参加の動機について) - ギルダンの徒然日記+

1日目:EVOJAPAN参加報告②:1日目(動向編) - ギルダンの徒然日記+

2日目:EVOJAPAN2023参加報告③(2日目~3日目) - ギルダンの徒然日記+

があるので、そちらを先に見るか、或いは総括だけ見たい人はこの記事をご参照ください。

 

 

☆全体の感想

00.前提部分

 まず、最初に「行ってよかった」、全体として「良いイベントだった」ということは純粋な参加者として述べておきます。後述する形で課題は山ほどあるのですが、それでもこのような形で全国的規模のeスポーツイベントが久々に行われたことは良かったですし、参加してその熱気や熱意、客層の多様さやありようを見る事が出来たことは、個人的にも非常に良い経験になったと思っています。

 以上を前提として、この先の感想を見ていただけると幸いです。

 

01-01.体力と精神力の限界に挑むイベント

 ここから個人的な感想としてまず、「のべ9タイトル、かつ三日間連続参加は体力と精神力が持たなかった」です。最後の方は大会での立ち回りも動きも無茶苦茶になっていましたね…。特に初日については7タイトル参加すると途中のフリープレイもほぼすべて参加不可能になるので、それはちょっともったいなかったなと思いました(交流もろくにできなかったですし)。非常に楽しかったのは事実なのでこれについては満足しています。ただ、次回以降は参加タイトルもうちょい絞ろうかなとは思います。

 

01-02.運営様本当にお疲れ様です(メイン・サイド共に)

 次にこの点、特にメイン(と98UMFE)ではお労しい方に、サイドは本当にありがとうございます、という方にと、感想が真逆といっていい方にお疲れ様ですという感じでした。

 まずメインについてはそもそもスタッフ一人にプール4つ(つまり48人が参加する4つのトーナメント、しかもルーザーズトーナメントもあり)を管理させるという時点で限界があるのではという状態でした。結果として、現地に来ていない方を呼びかけ続けなければならない状態や、スタッフの方が方々テーブル飛び回って大変になって試合進行が少しづつ遅れたりなど、大変なことになっておりました。

 これは『98UMFE』でも同じだったのですが、こちらは『KOF15』と被っていることもあり更に大変そうでした。最終的にピリピリしながらスタッフの方も「連絡がこない人はDQ(不戦敗)で」と決めて一気に進めていたので、それでようやく進行しておりました。全体として公式サイドとメインは少なくとも初日は中々うまくいってるとはいいがたい状態だったとはいえるのではないでしょうか…。

 他方で、サイドトーナメントについては非常に細やかに運営されておりました。私のように同時参加している場合トーナメントの試合順をずらしていただいたり、プレイヤーがいないときの連絡や完全不戦敗の条件など、きちんと整えられておりました。少なくとも私が参加しているすべてのトーナメントでそうだったので、本当にメインとの違いが見えていました。全体としてメイントーナメントは本当にスタッフの方お疲れ様です、という感じと、全体の課題が浮き彫りになっていたように思えますね…。

 

01-03.メインを中心に不戦敗の方が大きく増えた理由

 さて、このようにメインを中心に不戦敗の方が非常に多かった理由をちょっと考えてみます。一つ目には前の記事で述べた「Start.GGの問題」が挙げられると思います。Start.GGは今回EVOJAPANで主に使われたトーナメント運営、参加登録システムなのですが、このシステムでは少なくとも今回は「キャンセルするときに運営に直接言わなければいけない」という問題がありました。

 Tounamelなど別のシステムならキャンセルも自発的に出来たので、それらを利用する。或いはStartGGにその手のシステムが搭載されていれば、恐らく「行きたかったが行けなかったのでキャンセル」とか、「当日メインが被りすぎて無理なのでキャンセル」などしやすかったのではないかと思います。

 実際に、知り合いでも「メインに間に合わない」or「行きたいサイドと被っている」を理由にキャンセルしたいと運営に言おうとしていたのですが、スタッフに聞いてみた所「実際にトーナメントが始まった際の段階で来られなかったらキャンセルするので言われなくても大丈夫です」と丁寧に返されました。逆にこれスタッフの方々が(呼びかけも含め)大変だなとは思いましたね…。

 二つ目の理由は「参加費が完全に無料だから」という理由が挙げられると思います。無料だから取りあえず申請しといて、やはり無理だった…というケースは多そうです。「何故無料であったのか」については、恐らく運営が「メイントーナメントのみ参加し、メインが終わった瞬間に帰る客」や、「何も参加しておらず、とりあえず見に来る客」など、ほぼすべての観客層が来ることを想定していたからなのかなとは。結果としてニュースの通りであれば述べ3万5千人の方が来る大イベントになったことを考えると、恐らく運営は「まず一般の人含めeスポーツというのはこれだけの人が来るイベントだ」というのを示したかったのかな~とも。

 

参考リンク:「EVO Japan 2023」,3日間の来場者は延べ3万5000人を記録。各種目で優勝した選手のコメントも公開に[EVO Japan 2023]

 

 他方で、それが特にスタッフの負担になっている点は感じましたし、結果として不戦敗が多かったことはどう思われるのかは気になるところ…。他のスポーツや超大型イベントではどうなのかも含め気になりますね。

 

01-04.公式サイト・及び告知の不備

 ついでに、公式の課題についてもう一つ述べると公式サイトと告知面の不備は明確に挙げられると思います。まず、公式サイトにおいて情報が少なすぎました。スケジュールや地図もツイッターの方を見ないとわかりづらい状態でしたし、ルールもStart.GGに全て置いてしまっており、公式サイトだけでは情報が確認不可能でした。また、そもそも半年前ぐらいに公式サイトが現れてから、まともに更新があったのが1月前~1週間前でした。あとGUIも正直わかりづらかった面はあります。

 

参考リンク:EVO Japan 2023.

今も微妙に見づらいというか、何がどこにあるのかがちょっとわかりづらいですね…

 

 この点によって、参加者は公式サイトの特定頁とニュース頁とツイッターとStart.GGと…とみるべき情報を探し当てるのがかなり難しい状態になっていたのは確かだと思います。加藤先生など、ゲームプレイに参加しない参加者に聞いてる限りでもそうだったみたいです。

 告知の不備に関しては最終的にサイドトーナメントや企業との連携がうまくいかなかったことにもつながると思われます。もう少し早くメインのスケジュールを公開していればそれに合わせてサイドトーナメントでもメインの参加者と被るようなタイトルは時間設定を考慮したでしょう。特に公式サイドの『KOF98UMFE』はそれがいえると思います。

 端的に解決策を上げるならば、「一つ一つできたことはすぐ告知していけばよかったのではないか」という点なのですが、もし全てがニュースで出たレベルでぎりぎりまで動いていたのであれば、「もっと前から諸々動いていればよかったのでは…?」という方向に考えが浮かびます。いずれにせよ、準備段階からもう少し早め早めを意識してほしいなぁとは少し思いました。…これ前から言われてる気もしますね…EVO本家もそうなのかしら。

 

01-05.コミュニティノウハウの継承について

 あとは上記のメイントーナメントの課題や難点として総合的に感じたのは、「これまでのeスポーツイベントや対戦格闘ゲームイベントのノウハウの継承や学習がうまくいっていないのでは?」という点です。基本的にスポーツにせよなんにせよ、これまで行われてきた問題や課題を解決した先にルールや運営規則が作られ、それを基に更に競技シーンが洗練されていきます。特に対戦格闘ゲームイベントはこの30年で多数の形で行われており、サイドトーナメントの方々はそれらイベントの成果や問題点、課題を前提としてイベントを運営していました。

 これに比べると、メイントーナメントは諸々不備が目立っていた…というより、過去の問題点をそのまま残していた、と言えます。4回もやっていて…という面もありますし、サイドトーナメントがあれだけしっかりしていたのに…という面もあります。そこで考えたのが、最初の点である「ノウハウの継承」がうまくいっていない結果、同じ問題を起こしてしまっているのではないか、ということでした。

 ただ後で加藤先生に軽く話を聞いたところ、2023はともかく、過去のEVOJAPANについては中核スタッフは昔から対戦格闘ゲームイベントに関わっている人たちとのことです、なので末端にまでその点がうまく機能していない可能性もあるかもしれないということでした。…ただそれにしては幾つかの面はちょっと末端とかそういう問題では…というところもあるので、諸々予算が足りないのが一番の問題なのかもしれません。あるいは中核スタッフの意向が全体に行き届かないような運営デザインが問題なのかもしれないですね。なんにせよこの辺については公式にちょっと話を聞いてみたいor解決法を色々考えてほしいところですね…。

 

01-06.言語面の課題について

 EVOJAPANでもう一つ課題というか、問題として悩ましいと感じたのがこの点です。結論を言ってしまえば「世界的公用語圏でない国での英語・中国語対応は大変そう」という話ですね。日本語は公用語としてはマイナーであり、日本人を主体としたコミュニティでしか利用していない言語です。そのため、結果として世界的公用語しか喋れず、日本語が通じない相手が多数くるEVOJAPANのようなイベントでは、特に人数が多い英語や中国語対応が必須だと思われます。今回のイベントではそれら喋れるスタッフがどうしても少ないため、対応に苦慮していると思しき場面がいくつか見られました。(第二公用語同士で喋っているため意思疎通が難しい…などなど)

 この問題は正直多分「翻訳アプリが進化してスタッフ全員がそれで気軽に対応できるようになる」ことが一番なのですが、それはそれで予算の問題になっちゃいそう。難しいところですね…。ただ、今後もこの手の問題はeスポーツ関連イベントでは絶対に現れる問題なので、他国では(マンパワー以外で)どう解決しているのかについて調べたいところです。例えばフランスのStunfestとかどうやってるんでしょうね…。

(思い出したことで言えば、日本に住んで数年のフランス人の知り合いが「見た目欧米系の外国人だからって英語が全員出来ると思わないでほしい、むしろ今は日本語の方が出来るよ」と言ってました。普通に考えたら確かにそうですよねぇ…)

 

☆客層について

02-01.一日目~二日目の客層について

 最後に、今回のEVOJAPANに行くもう一つの目的であった客層についてまとめます。まず全体としてはやはり「若者の男性」が主体でありました。他方で、それ以外の部分、例えば年齢層や国籍、雰囲気、見た目等々、様々な点が大きく異なっており、まさに混沌と化している姿は非常に興味深かったです。本当に様々な方が対戦格闘ゲームをプレイしていることが浮き彫りになっていたと思います。何が特に多かった、ということもあまりなくまんべんなく多様だった印象が強かったですね。

 メインとサイドについてもそこまで大きな違いはなかったように思います。メインの方が多少プレイヤーの年齢層が若く、また女性も多く見えたかな、という塩梅ですね。ただサイドトーナメントの中でも女性が多そうなイベント(特にポップン大会かな…)はあったので、作品によりけりかもしれません。

 いずれにせよ、本当に混沌とした姿を見る事が出来て文化人類学としても社会学としてもこのコミュニティの多様さは考える必要性はあるのかな~とは見てて思いました。どうしても米国の研究ではeスポーツは完全に男性主体となりがちという話は耳にするのですが、そこまでのものかな…?と思うのは日本だから、かもしれません。諸々この辺は(特に家庭用のコミュニティ主軸に)気になりました。

 あと大きく興味深い点がもう一つあります。それは、「親子連れ、或いは子連れの母親の参加者がそれなりにいた」ことです。割と目立つ形で結構いた記憶はあります。

 最近私は法隆寺町で行われたeスポーツイベントにも行ったのですが、そちらは明確に親子連れを主目的の一つに据えた地域振興型のイベントだったので、そういう人たちが来るのはある意味で当然であり、それがうまくいっていることもeスポーツや対戦格闘ゲームの社会的位置づけとして興味深い変化と感じていました。しかし、今回はそうではなく、対戦格闘ゲームのプレイヤー向けのイベントです。

 普通これだけ大人数の参加者が予想されるイベントの場合子供を連れる時はそれなりに考えると思われます。しかし、その上で「子どもを連れていても問題ない」イベントとしてEVOJAPAN、ひいてはeスポーツ、対戦格闘ゲームのイベントが思われるようになっている。この点は、過去のゲームセンターのありようや、ビデオゲームに対する目線から見ると非常に興味深い社会的認識の変化だと思われますし、実態の変遷について考えたい内容だと改めて感じました。格闘ゲームプレイヤーの二世代化もありそうですし、純粋な社会的イメージの向上もありそうですね。この二つの場合にしても、「ではFPSなどの場合はどうなのか」なども気になりますね。

 

02-02.三日目の客層について

 続いて三日目の感想ですが、まず全体としては1~2日目と同じで、一番多かったのは男性の若者プレイヤーだったと思います。

 他方で、年齢が私がよく見ていたサイドトーナメント参加者に比べると「より観戦者の平均年齢層が若そう」に見えました。更に重要な点として、1日目~2日目に比べて、「女性の観戦者の比率が多い」ことが気になりました。その意味では明確に1~2日目と参加者の傾向が違っていましたね。これは私がGGST~鉄拳のはじめ頃までいた上での感想なので、『ストリートファイター5』までいったらまた様相が変わっていたかもしれません。他方でS席はGGSTが終わる頃には埋まっており、A席は半分ほど埋まっていたので、座れる席の方々の傾向は間違っていないと思います。

 この上で興味深い点は「ちゃんとA席、S席が埋まっていたこと」でしょうか。私は途中で(体力・精神力が3日間連続の限界で)帰ったのですが、その段階でA席は半分、S席は7~8割が埋まっていましたし、最後の『スト5』の配信を見て観客席を確認したところちゃんとA~S席が全て埋まっていました。

 このA席、S席は最初の記事でも書いたように5000円~8000円とそれなりの値段がします。それなのに全てしっかり埋まっているということは、「インターネット配信で無料で見れるにもかかわらず、超上級者のeスポーツプレイヤーのファンである。あるいは彼らの対戦を間近で見て応援したい、或いは参考にしたいがために5000円~8000円を払える」と考える層が席が埋まるぐらいいたということになります。

 実際に『GGST』の司会が参加者の二人にインタビューした際に出た言葉が「ダルイノさんを応援したい」でしたし、似たような人が割といるのかもしれないかなとは。改めて競技シーンやインターネット配信などが当たり前になりつつある対戦格闘ゲーム、引いてはeスポーツシーンの特殊性が一般化してきた流れを感じました。

(因みに私がもし聞かれていたら「とりあえず自分の使用キャラの方の動きを参考にしたいですね」とか割ととんでもない返しをしていた可能性が高いです。いやまぁ自分は自分のメイン競技でもなければマジで世界レベルの人か逆によくリアルでも知ってる人しか有名プレイヤーわからんので…。)

 

 このように一般的に応援する方が増えているとなると、改めて「その中でゲームを実際に継続してプレイしている人がどれくらいいるのか」は気になりますね。全くやってないけど応援しているプレイヤーがいる、となると更に興味深いですし、この点は他のスポーツの競技シーンや応援シーンとの差異も踏まえて深く考えたいです。

 例えば野球とかは小学生~高校時代にやっていたかもしれないぐらいで基本は誰もが現在進行形でやっていないけどファンだったりします。それに比べてeスポーツはどうしてもビデオゲームの娯楽文化としての特性上、「やっていること(=当事者であること)が面白さを見る事が出来る前提」で語られがちです。その状況が崩れているのかどうかは気になりますし、崩れているのであればそういった視聴者はどのような点に面白みを感じているのか、面白みを学んだのかは気になるところです。

 「有名プレイヤーだから」などの「人」として見ているのか(有名人主体)、或いはゲームの面白みを見ているのか(作品主体)など、ありようによって大きくこれからのeスポーツや、配信文化に関する考え方が変わりそうなので、だれか統計調査がうまい人にしっかりやってほしいところ…。聞き取り調査なら自分も手伝いたいです。

 

☆最終的なまとめ。

 最後にEVOJAPAN全体のまとめですが、「行ってよかった」これが一番の感想です。プレイヤーとしても全世界レベルの対戦格闘ゲームイベントの熱量や規模を感じる事が出来ましたし、その中の客層の混沌さ、多様さについても興味深く見る事が出来ました。同じ日本人だけではなく、外国人プレイヤーも日本人プレイヤーがいろんなゲームで対戦しているのを興味深く見ていたりとか、そういった意味での国際交流も見えて面白かったですね。

 また、1~2日目と3日目の違いの調査についても非常に興味深い流れが見えたのでよかったです。全体として、非常に興味深いイベントに参加出来ました。

 他方で記事にも書いたように、「課題が割と明確にわかっているのに直せない状況の難しさ」も少し見えました。規模が大きいからこそなのか、それ以外に問題があるのか整理して、今後に繋げてほしいところです。

 とりあえず簡単な報告としては以上になると思います。うまいこと他の研究と接続して考えたいと思っているのでちょっとまた頑張りたいですね。改めて、非常に長文になりますが見ていただいてありがとうございました。